食品の用途発明について

食品の用途発明について

食品の用途発明に関する審査基準が改定され、2016年4月1日より運用が開始されました。この改定は、食品分野の知的財産戦略において、今後、大きな影響を与えると考えられるので、食品産業に係わる各社においては、その対応策が検討されているところです。

特許の審査基準において、用途発明とは、「ある物の未知の属性を発見し、この属性により、当該物が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明」と定義されており、具体的には、特許請求の範囲に「~用」といった、物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がなされた発明を意味します。

従来、食品の用途発明がまったく認められていなかったわけではなく、例えば、「麺用の食感改良剤」、「調味料用風味向上剤」、「ケーキ用澱粉組成物」などのように、特定の用途限定を付した食品の発明が、これまでも認められ、権利化されていました。

しかし、公知の食品組成物に関して、今まで知られていなかった生理活性などの機能、例えば「血糖値上昇抑制」、「血圧降下」、「体脂肪低減」などの機能を新たに発見し、その事実に基づいて「血糖値上昇抑制用食品組成物」、「血圧降下用食品組成物」、「体脂肪低減用食品組成物」のような発明を特許出願しても、そのような効能は、本来食品には表示できないものであり、食品としての新たな用途を提供することにはならないので、公知の食品組成物自体と区別できないというような理由に基づいて、「~用」という部分に関しては発明の構成要件として判断されず、その食品組成物自体が公知であれば、新規性が認められていませんでした。

ところが、健康志向の高まりや健康増進が望まれていることなどを背景として、健康食品の市場規模が増大していること、臨床実験データ等を提出して表示許可を受ける特定保健用食品の制度や、更には、平成28年4月に始まった機能性表示食品制度の制定により、食品においても機能性表示が認められる場合がでてきたこと、それに伴って食品の機能性に関する研究開発が盛んに行われるようになってきたことなどから、そのような開発者の成果を適切に保護して、食品産業の発展を図るべきではないかという要望があり、外国の制度との比較等も考慮された結果、当該技術分野における発明の保護及び利用等を図るために、食品の用途発明に関する審査基準が改訂されるに至ったのです。

新しい審査基準によれば、用途発明の具体例として、例えば下記のような例が挙げられてその解説がなされています。以下にその記載を抜粋いたします。

[請求項1] 成分Aを有効成分とする二日酔い防止用食品組成物。
[請求項2] 前記食品組成物が発酵乳製品である、請求項1に記載の二日酔い防止用食品組成物。
[請求項3] 前記発酵乳製品がヨーグルトである、請求項2に記載の二日酔い防止用食品組成物。
(説明)
「成分Aを有効成分とする二日酔い防止用食品組成物」と、引用発明である「成分Aを含有する食品組成物」とにおいて、両者の食品組成物が「二日酔い防止用」という用途限定以外の点で相違しないとしても、審査官は、以下の(i)及び(ii)の両方を満たすときには、「二日酔い防止用」という用途限定も含め、請求項に係る発明を認定する(したがって、両者は異なる発明と認定される。)。この用途限定が、「食品組成物」を特定するための意味を有するといえるからである。
(i) 「二日酔い防止用」という用途が、成分Aがアルコールの代謝を促進するという未知の属性を発見したことにより見いだされたものであるとき。
(ii) その属性により見いだされた用途が、「成分Aを含有する食品組成物」について従来知られている用途とは異なる新たなものであるとき。
請求項に係る発明の認定についてのこの考え方は、食品組成物の下位概念である発酵乳製品やヨーグルトにも同様に適用される。

上記のような事例の場合、今までの審査基準では、「二日酔い防止用」という部分は発明の構成として判断されず、引用発明である「成分Aを含有する食品組成物」と構成上変わらないから、新規性がないと判断されていました。しかしながら、今回の審査基準の改定により、審査官は、「二日酔い防止用」という用途限定も含めて新規性、進歩性を判断しなければならず、従来技術から、そのような機能が当業者にとって予測できなかったことであると判断されれば、新規性、進歩性が認められて、「成分Aを有効成分とする二日酔い防止用食品組成物」という発明で権利化されることになったのです。

そして、ひとたび、このような発明が特許権利化されると、「成分Aを含有する食品組成物」について、二日酔い防止に効果がある旨の表示や、宣伝をすることは、特許権者又は特許権者から実施許諾を得た者以外は、原則としてできなくなります。したがって、食品の用途発明を特許権化することにより、他社製品と差別化し、消費者に対して自社製品をアッピールする上で、大きな武器となる可能性があります。

しかしながら、健康食品としてある程度知られた食品素材に関しては、既に数多くの生理活性効果が発表されていることが多く、研究によって生理活性効果を発見しても、そのような効果についての公知資料がでてくる場合も少なくありません。また、従来発表されている機構とは異なる機構によって同様な効果がもたらされることを発見した場合には、機構は異なっていても結果的に同じ機能をもたらすものであって、用途的に区別できないと判断される場合もあります。

そのような場合でも、公知資料にでている食品素材との、原料の加工方法や抽出方法などに違いに基づく成分の違いや、機構の違いによる用途上の相違点などを主張することにより、新規性、進歩性を認めてもらえることもあるので、あきらめずに、特許化の方策を検討すべきであると考えます。更に、用途発明は、用途限定を付している点で、食品組成物自体の発明に比べて、侵害の認定に関して難しい権利となります。このため、食品組成物自体としてみても、従来品に比べて明確な違いがあるのであれば、用途を限定しない食品組成物自体としても権利化できないかを検討すべきです。弊所においては、食品特許に関する数多くの経験に基づいて、そのような様々な観点から、食品の用途発明についてサポートさせていただきます。

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