健康食品と特許

研究の展開と発明

 もし貴社の研究者が、ある糖A、Bに、ある微生物Mが生産する新規な酵素Eを作用させることにより、新規なオリゴ糖Cが生産されるという事実を発見したとしたら、これに基づいてどのような発明が特許化できるのでしょうか。また、この発見から今後の研究によってどのような発明が予想されるでしょうか。

 まず、この時点で特許請求の範囲に記載できる発明としては、①新規なオリゴ糖C(ただし化学式等で特定する必要あり)、②新規な酵素E(ただし所定の理化学的性質を記載して特定する必要あり)、③糖A,Bに酵素Eを作用させることを特徴とする新規なオリゴ糖Cの製造方法、④微生物M(微生物Mと同じ属の微生物であって酵素E生産能を有する微生物という記載でもよい)を培養してその培養物中から酵素Eを採取する酵素Eの製造方法などが考えられます。

 次に、当然のことですが、研究者は、上記発見を工業的な利用に結びつけようと考えます。そのような過程で発生すると考えられる発明としては、⑤新規なオリゴ糖Cの用途発明が挙げられます。用途としては、各種の飲食品、医薬品、化粧品などが考えられます。この場合、新規なオリゴ糖Cが、まだ発表されない前であれば、特に飲食品に関しては、何らかの有用性を示す程度で、比較的簡単に特許化できるかもしれません。

しかしながら、新規なオリゴ糖Cが学会発表や特許公開公報などによって公知になった場合には、オリゴ糖Cを単に特定の飲食品、医薬品、化粧品に用いるというだけでは、新規性はあっても、進歩性は認められない可能性があります。この場合、オリゴ糖Cを特定の用途に用いることによる特有な効果を立証する必要があります。

例えば、冷凍パン生地に添加したとき、酵母の冷凍障害が抑制されて焼き上がりのパンの膨らみが良好になったとかの特有な効果について、できれば他の糖類を添加した場合と比較して、顕著な効果がもたらされることを立証する必要があります。

また、そのオリゴ糖Cが何らかの生理活性を有していることを発見した場合には、オリゴ糖Cを有効成分として含有する特定の医薬品の発明として特許化できる可能性があります。例えばオリゴ糖Cが腸内フローラの改善作用を有することがわかれば、腸内フローラ改善剤として特許化できる可能性があります。

 このような用途発明は、オリゴ糖Cが公知になった後に出願した場合でも、上記のように、特定の用途に用いることによる特有な効果を立証することができれば特許化が可能であり、このことは、オリゴ糖Cの存在を知って、その用途を研究した第三者が出願することによっても権利化されることを意味します。

 貴社が物質特許を取得した場合、そのような第三者による用途特許は、貴社の物質特許の利用特許となるため、貴社から実施許諾を受けなければ実施することができません。しかし、逆に貴社自身も、その第三者による用途特許を実施することができなくなります。従って、物質特許を取得したからといって安心しているわけには行きません。その新規物質の用途開発を行い、新しい用途や、既存の糖類に比べてより優れた効果を発揮するような用途については、別途用途特許の出願をする必要があります。

 また、オリゴ糖Cを生産するためには、酵素Eを工業的に生産しなければなりません。このため、酵素Eのアミノ酸配列を求め、そのアミノ酸配列をコードする遺伝子を作り、これをベクターに取り込み、生産性のよい別の微生物に組み込んで酵素Eを生産することも考えられます。このような研究からは、⑥酵素Eのアミノ酸配列をコードする遺伝子、⑦該遺伝子を含む組換えベクター、⑧該遺伝子又は組換えベクターによって形質転換された微生物(形質転換体)、⑨該微生物を利用した酵素Eの製造方法等の発明が特許化できる可能性があります。しかし、これらは、現在では既に確立された手法であるため、酵素が公知になってしまうと、何らかの困難性が認められない限り、当業者が容易になし得たことであるとして、進歩性が認められない可能性があります。

 他社の実施を阻止する上で、特に有効な特許となりえるのは、①新規なオリゴ糖C、③糖A,Bに酵素Eを作用させることを特徴とする新規なオリゴ糖Cの製造方法、⑤新規なオリゴ糖Cの用途発明だと思われます。特に新規物質である①の発明は広い権利となり得るものですが、そのオリゴ糖の誘導体や、そのオリゴ糖に類似するオリゴ糖についても、権利化が可能かを検討する必要があり、物質特許を取得した後にも、第3者に用途特許をとられないように努力する必要があります。また、新規物質の発明というのは、それほど多くはないと思いますが、公知の物質であっても、新しい用途を発見した場合には、特許化が可能である点に留意すべきだと思います。

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