健康食品と特許

健康食品と特許

 農芸化学科出身の私は、弁理士開業以来、食品会社とのお付き合いが多く、これまでに数多くの食品特許を扱ってきました。食品特許といっても、いろいろな種類があり、例えば新しい食品素材に関するもの、原料の配合や組合わせに特徴があるもの、原料の処理方法に特徴があるもの、製品の形態に特徴があるもの、食感や風味改善のために添加剤や処理方法を工夫したもの、新しく発見された生理活性に着眼したものなど様々です。

 この中で、新しく発見された生理活性に着眼した特許というのは、食品素材自体は公知であっても、例えば動物実験や、臨床試験によって、これまでに知られていなかった何らかの医薬的な効果があることを発見した場合に、「…を有効成分として含有することを特徴とする~剤」というような発明として出願される特許のことをいいます。例えば、ある特定の食品素材を有効成分とする、免疫増強剤、抗癌剤、抗ウイルス剤、血糖値上昇抑制剤、肝機能改善剤、腸内フローラ改善剤、便通改善剤、脂質代謝改善剤、抗酸化機能増強剤、体力増強剤、美肌促進剤、育毛剤などが挙げられます。

 一方、近年、薬屋の商品陳列棚や、新聞の広告などにも、様々な健康食品を見かけるようになってきました。そして、私がこれまでに特許出願をしてきた上記のような生理活性に着眼した多数の商品が陳列されているのを見て、健康食品に対して人々が大きな関心を寄せており、実際に大勢の愛用者がいることに気付いて驚いたことがあります。

 ところで、健康食品というのは、食品である以上、医薬的な効能等を表示して販売することはできません。したがって、「…を有効成分として含有することを特徴とする~剤」というような医薬用途の発明について特許を受けたとしても、健康食品に対して文句を言えるのかという疑問が残ります。

 しかしながら、健康食品というのは、単なる食品として考えると少々高いものであります。それでも売れるのは、需要者がその食品を食べることによって、自分が必要とする特定の医薬的な効能を期待しているからだと思います。したがって、健康食品を売るためには、その商品カタログや、販促資料や、新聞、雑誌、折り込み広告などの宣伝に、どういう効き目があるのかについて、薬事法に違反しない範囲で、何らかのアッピールをするのが通常ではないかと思われます。

 ある公知の食品素材について、上記のような医薬用途の特許が成立した場合、その食品素材を用いた商品を、そのような医薬的な効能をアッピールせずに販売する場合には、特許権侵害の問題は生じないと考えられます。なぜなら、その食品素材自体は既に公知のものであったからです。

 しかし、健康食品においては、需要者に健康に関する何らかの効能があることをアッピールする必要があるため、新たな医薬的な効能が発見された場合、そのような事実を販売促進に利用することが多くあります。特に大学の先生等による学会発表などの記事はよく利用されるものです。

 ところが、上記のような医薬用途の特許が成立していて、特許権者以外の第三者が、特許権者の承諾を得ずに、それと同じ効能に関する宣伝行為をした場合には、たとえ食品であっても、特定の医薬的な効能をもたらすための商品として用途付けられるので、上記医薬用途の特許を侵害する可能性がでてくるのではないかと、私は考えております。この点について、明確な判断がなされた判例を私は知らないのでありますが、健康食品業界の競争激化に伴って、そのような特許紛争は、今後増えてくる可能性があるように思われます。

 したがって、健康食品業界においても、他社がどのような特許出願をしているか、自社の製品が抵触する可能性がある特許はないかについて、常に注意を払って商品開発を行うと共に、逆に、自社が開発した新たな製品について何らかの観点で特許出願できないかを検討し、他社の類似商品による追随を阻止することが企業戦略として必要であると思います。

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